絵のない絵日記 短編小説シリーズ2 「もう一つの甲子園」


< 7月30日>

***** もう一つの甲子園 (5) *****

初出場、奥山田高校のエース田中は強豪FL学園を相手に快投を続けていた。
7回を終わって0対0。 当然「大奥山田村応援団」の応援は意味不明なまでに
盛り上がっていた。

「よっしゃ〜〜!! ええぞええぞ!! 田中の坊主はええ男や!!!」
「試合終わったら、たんまりスイカ食わしちゃるけんのう!! 頑張れやぁ!!」
「そうやでぇ!! このスイカは甘かぞぉ〜!!」
「ひろしぃ〜〜、とうちゃんがサンバば踊っちゃるけんのう!! 見ときーや!!」

一見おのおのバラバラの応援であるが、却ってそれが甲子園では新鮮に見えた。
炎天下、甲子園名物「かち割り氷」ならぬ、持参のスイカにかぶりつきながらの
応援は、何故か日本人の心を揺さぶるモノすらあった。
ただ、お陰で「スイカ頭大応援団」の数が、回を追うごとに減ってきたのは仕方が
無いことかも知れない。
そして、8回表の奥山田村高校の攻撃が始まった。
奥山田村高校はここまで内野安打1本に押さえられていた。
監督がこの回の先頭バッター、キャプテン鈴木君を呼んだ。

「おい、鈴木。ともかく狙い玉を絞っていけ。最初から積極的にヤマを張って振り抜け!」
「はい、監督!!」

FL学園のピッチャーも大会前からドラフト1位候補と言われる好投手だった。
そう簡単には打ち崩せない。監督はキャプテン鈴木君の怪力に期待していた。

「一球目は外角ストレート。多分誘い玉のボール玉だろう...」

こうヤマを張った鈴木君は初球、思い切り踏み込んでバットを振り抜いた!!

「カッキーーーン!!!」

鈴木君のヤマカンは見事に当たった。見送れば完全にボール玉である。
しかし、打球は快音を残してレフト方向へ一直線に飛んでいった。

「おい!!こりゃあ凄いべ!!」
「行けやぁ〜〜!!!」

奥山田村大応援団の口からスイカのタネと共に絶叫にも似た歓声が沸き起こった。

「おい、入った!!入ったべ!! ホームランだべ!!」

最初からボール玉を予想し、それを敢えて見送らず積極果敢に打って出た鈴木君の
会心の一撃だった。

「そりゃあ〜〜!!奥山田村音頭だべぇ!!」

奥山田村大応援団は、今日初めての「奥山田村音頭」を踊り狂っていた。

...................(まだまだ続く)


< 7月31日>

***** もう一つの甲子園 (6) *****

鈴木君の快打で1点をリードした奥山田村高校の勝利は目前に迫っていた。
9回裏、FL学園最終回の攻撃もツーアウトランナーなし。得点は1対0。
奥山田高校のエース田中君快投は続いていた。

「お〜〜し、田中の坊主!!いい調子だべ!! 後でたんまりスイカ食えや!!」
「勝ったらもう1回、奥山田村音頭だべぇ!!」

どこまでも盛り上がる応援団。しかし、その中で手放しで喜べない2人がいた。

村長:「こりゃあ、ホントに勝ってしまうべ!!」
校長:「次の試合、どうしましょう......」
村長:「あぁ、頭痛いべ!! 既に役場の連中にはかなりの寄付金を貰っとる...
    これ以上は苦しいべ......」
校長:「うちのセンセらからも、だいぶ寄付して貰ったでのう......」
校長:「あぁ......一体どうしたらよかんべ!!」

一方、田中君の球威は衰えを知らなかった。
一気に2ストライクと追い込むと、最後の一球を渾身の力を込めて投げ込んだ。

「ストライーク!! ゲームセット!!」

「うわあぁぁぁぁ!!!!!」
「おい、勝ったべ、勝ったんだべ!!」
「そりゃあ〜〜奥山田村音頭じゃあ〜〜〜」

歓喜のあまり、奥山田村大応援団のあちこちからスイカが宙へ舞い上がった。  

「おい、勝ったぞ!! あのFL学園に勝ったんだぞ!!」
「やったな、田中!!」

勿論選手達も大喜びである。
そして、試合終了の挨拶が終わると、我先にと応援席の方へ走り出した。

「皆さん、応援ありがとう!!」
「後でスイカパーティー、宜しくぅ!!」

応援席に向かってありったけの声を上げる選手達。
しかしその時キャプテンの鈴木君は応援席を見て、ふと気が付いた。

「......おい、気のせいか校長先生の元気が無いようだぞ!!」
「ホントだ!!いつも元気無限大の校長なのに......ヘンだなぁ!!」
「......もしかしたら...校長は応援団の費用の捻出で悩んで居るんじゃないか?」
「そうかも知れなねぇな。だって、村長も元気ないもん!!」
「そうかぁ......」

そう言うと鈴木君は少し考え込んだ。

...............(月をまたいで、尚も続いちゃう!!)


< 8月 1日>

***** もう一つの甲子園 (7) *****

強豪FL学園を下し、全身から喜びと笑顔を振りまきながら、奥山田村高校の選手達は
グラウンドからロッカールームへと引き上げていった。
勿論、その途中にはたくさんの報道陣が待ちかまえている。
そして監督と、キャプテンで殊勲のホームランを打った鈴木君が「勝利者インタビュー」
のお立ち台に立つ事になった。

「監督、おめでとうございます。どうぞ台にお載り下さい」
「......わしゃあ、ディスコは踊れんべ!」
「いえ、インタビューですよ。どうぞ!」
「へぇ...」

監督もこんな事は初めてである。しかし、学校では台に乗って喋るのには慣れていた。
そして監督は台に登ると、無意識のうちに叫んでいた。

「小さく前に〜習え!!」

この時、数名の選手と報道陣が思わず手を前に出してしまった模様がテレビ通し
全国に放送されたことは言うまでもない。

「......あ...いや、監督、そうではなくって...」
「あっ...スイマセン...ついつい...」
「...え〜、監督、今日は素晴らしいゲームでしたね。」
「全部選手達が頑張ったからです。これから沢山スイカを喰わせてやりますよ」

監督がひたすら選手を褒めまくっている頃、キャプテンの鈴木君はインタビューの
途中で思わずマイクをつかむと、「MajiでKoiする5秒前」を歌っていた。

「あのう...鈴木君...」
「あっ!!すいません。うちの村にもカラオケが来たモノでついつい...
 しかし、ここで是非ひとつだけ聞いて欲しいことが有るんです!!」
「......聞いて欲しいこと?」

そう言うと鈴木君は大きく深呼吸をした。

「応援に来てくれた奥山田村の皆さん、本当にありがとうございます。
 僕らは皆さんの声援のお陰で勝つことが出来ました。
 こんなに嬉しいことはないです。
 しかし、次の試合、僕たちは僕たちの力だけで頑張りたいと思います。
 今、スイカの収穫で大変な時期です。次の試合、僕らはここで頑張ります。
 皆さんは是非、スイカ畑から僕らを応援して下さい。
 こんな事言って生意気かも知れませんが、僕らにはここから皆さんの、
 奥山田村で声援して下さる皆さんの姿が見えると信じています!!」

この、鈴木君の心の叫びは、ラジオを通して応援席でなおも盛り上がる
奥山田村大応援団の人たちにも届いていた。

...............(こんなに長くなるつもりはなかったが、勢いだけでまた続く...)


< 8月 2日>

***** もう一つの甲子園 (8) *****

「おい、ラジオの鈴木んとこの坊主の話、聞いたべか!」
「聞いただ、聞いただ!!わしらに気ぃ使っとるんだべか...」

奥山田村大応援団の人たちがザワつき始めるやいなや、校長が立ち上がり大声で叫んだ。

「みんな、聞いてけれ。鈴木君は頭のいい子だべ。それに優しい子だべ。
 きっとワシや村長のことまで気を使ってくれたに違いねぇだ。
 実はこんな事があっただ...」

それは、甲子園出場が決まった日の夜のことだった。

 「校長先生、失礼します」
 「おう、鈴木君か。おめでとう」
 「ありがとうございます...ところで...」
 「なんだ」
 「監督は気にするなと言ってくれたのですが...僕らの野球部にはほとんど
  予算が無いですよね。それで、何か僕らに出来ることが有れば是非仰って下さい。
  みんなお金は持ちませんが......宿は公民館でいいです。
  甲子園へもトラックの荷台に乗って行きます。それから...」
 「...ありがとう、鈴木君。でも、君たちは試合のことだけ考えてくれたら良いんだよ。
  村長さんだって応援してくれることになったんだ」
 「...ホントですか!!」
 「勿論だ。まぁ、大した宿じゃないし、鯛の活け作りが出るわけでもないが、
  ご飯のお代わりは自由だ」
 「もしかしたら、食後にプリンが出ますか?」
 「判った。プリンもドンブリでお願いしておこう」
 「...嬉しいです!! 先生、ありがとうございます」
 「うん。頑張ってくれ」
 「じゃ、今から村長へお礼に行って来ます!!」

「......そう言うと走って村長のところへ行きよったべ。あの子はそこまで考えてくれる子じゃ」

その話を聞いていた奥山田村のみんなは、やがて気を取り直したように口々に叫んだ。

「いい話じゃねぇべか!!」
「おい、みんなで選手達にスイカを持っていくべ!!」
「そうじゃそうじゃ!!」

そう言ってみんながスイカを両手に抱えて出口へ向かおうとした時、向こうの方から野球部の
選手達が走り寄ってきた。

......................(泥沼状態でまだ続く)


< 8月 3日>

***** もう一つの甲子園 (9) *****

「みなさん、応援、ホントにありがとうございました!!」
「いやあ、よく頑張ったべ、よくやったべ!!」
「とても嬉しかったです!!」
「次も頑張るんだべ!!」

その後、選手達は校長の近くに集まった。

「校長、僕のインタビュー、聞いてくれましたか?」
「うん、君らの気持ちはよく判った。」
「皆さんの気持ちはホントに嬉しいんです...」
「もう判ったよ。鈴木君。君たちの言うとおり、次の試合、わしらは奥山田村から精一杯
 応援するよ。でも、」
「でも...」
「もし、君たちが決勝まで進むことがあったら、もう一度わしらはここで応援をする。
 それまでは君たちだけで頑張ってくれ」
「ハイ。わかりました。 嬉しいです」

やがて、甲子園を後にするトラクターとトラックの集団を見ながら、選手達はいつまでも手を振りながら、
もう片一方の手でスイカを食い散らしていた。

それから、2週間後。
奥山田村高校の校長室には校長と村長がテレビで高校野球の準決勝を見守っていた。
校長の机の上には、たくさんの寄付金が載せられている。
その上、学校のグラウンドには、さっきからたくさんのスイカが持ち込まれてきていた。
しかし、試合は8回まで0対0。 まだ、予断は許さない。
奥山田高校の攻撃もあと2回。 バッターボックスには鈴木君が入ろうとしていた。
この時、鈴木君の脳裏にある予感がした。

「......初球はきっと、外角ボール玉になるストレートだ!!」

鈴木君が思いっきりバットを振り抜いたとき、彼には奥山田村の歓声が聞こえた気がした。


..................(終わり)





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