Mebiusよ、これがWindowsの旗印だ

 「医者が治らんといった病気が、こんな簡単に治るやろうか」の疑問半分ではあったが、とにもかくにも、まがりなりにも治った。多少トンチンカンナなところもあるが、ささいなことは水に流そう。水に流さなければ親子の間で水臭い。ナンノコッチャ。かくして痴呆騒ぎは一件落着した(だろう、と思う)。

 やっとのことで職場へ完全復帰した。それでも再発を恐れる毎日であることに変わりはない。昼休みには家へ帰り、母と差し向かいで昼食を食べる。色気はないが、仕方もない。

 母の病状も落ち着いたある日、いきなり会社のパソコンを入れ替えることが急に決まった。長いことパソコンのことは忘れてしまっていた。もちろん会社では給料計算や、売上管理、仕入管理のプログラムを作成した行きがかり上チョコチョコメンテはやっていたが、本格的にやるとなると、六年ぶりぐらいになる。

 根が新しいもの好きだけに、こんな話になると引っ込んではいられない。鶴の一声でNECのノートパソコンに決定した。Pentium:133MHz、RAM:32MB、HDD:1GB仕様である。なぜこれに決めたか?もちろん今までが常にマイナーな機種を購入してはそのマイナーさ故に泣きを見て来た私にとっては、今回だけはメジャーな機種にしたかったのである。

 そしてそれとほぼ平行して私用のパソコンも購入することにした。こちらはなんといってもPC9801U2以来である。CPUがV30、RAM128KB(増設して384KB)、HDDなしからの移行である。どの機種を選んでもとびっきりのハイスペックになる。そこで予算を始とする諸般の事情を鑑みSHARPのMebiusにした。

 たかをくくっていた。何しろこちとらi8080以来の歴戦の兵だ。PentiumたっておんなじメーカのCPUじゃないか。なんてことあるかい。などとおもいながら電源スイッチを入れる。チリチリチリチリとハードディスクの動作音も心地よく立ち上がって行く。途中BIOSがどうしたこうしたとメッセージが流れるが、何といったってアチャラ語だ。読んでるうちにメッセージが消えては現われる。

 意味など分らない。意味がわからないメッセージなど何の役にも立たない。目障りなだけだ。なんてェことをいったりしながら待つこと数分(のような気がした)、例の風にたなびくWindowsマークが現われた。「翼よあれがパリの灯だ」は昔の話。今では「Mebiusよ、これがWindowsの旗印だ」と言い聞かせる。

 Windowは立ち上がったが、取り敢えずすることがない。終了しよう。ところがどうだ。プロンプトがない。当たり前だ。WindowsはWindowsであってMS−DOSではない(実際には裏面にあると言った方がよいのかも)。いくら待ったってプロンプトは現われるわけもない。はなはだ心もとないが、Windowsに関する本など読んだことがない。ましてや取り扱い説明書など・・・・・

 どうやったら終了できる?立ち上げはうまくいった。すなわち始よければ終わりよしだ。終わりもいいに決まっている。そうだ。始と終わりは繋がっている。始があるから終わりがある。終わりがあるから始がある。思考がかなり、哲学的になってきた。画面左下にスタートとある。マウスポインタをスタートにもって行った。マウスをクリックする。

 吉と出るか、凶とでるか、丁半賭博の心境だ。すると、なんのことはない。メニューが現われて、その中にWindowsの終了とある。高度3000mの飛行機からパラシュートも付ずに飛び降りる程の覚悟をもって決断したのに、たいしたことはなかった。何のことはない。滑り台の階段一段よりも低かった。案ずるよりも生むが安だ。

 そりゃそうだ。時代は進んでいる。後退しているわけではないのだ。パソコンは格段に使いやすくなっているに違いない。我家の初代パソコン「パソピア」はZ80A(8Bit)の4MHzだ。クロック周波数だけ比べてみても約30倍だ。メモりに至っては64KBから48MBだからざっと500倍だ。これだけ、高速で、広大なメモり空間を使用しているのだ。簡単になってなけりゃおかしい。

 Windowsの終了をクリックする。もう先程のドキドキ感はない。さすが、ベテランだ。ところがこれだけでは終わらない。メッセージボックスが現われた。早い話が終了の仕方を聞いているようである。迷わず、コンピュータの電源を切れる状態にするを選択クリックする。再びハードディスクの動作音。しばらくするとハードディスクの動作音が止むのと同時に画面が暗くなった。

 どうやら電源が切れたようである。やれやれと思わないのが、yamachanのyamachanたるところだ。先程クリックしたのはコンピュータの電源を切れる状態にする、であって電源を切るではない。どうやらWimdowsは進化し過ぎてメッセージを追い越してしまったらしい。メッセージどおりてあれば最後に「電源スイッチを切ってください」などのメッセージを出せっていうんだ。切れる状態にする、とメッセージしておきながら勝手にスイッチを切るな。乗るなら飲むな!(これは関係なかった)。

 文句は言ってみて、気が済むものだ。上がりっ離しだった脈拍もようやく下がり始めた。どうにか記念すべきWindows初体験は済ませた。これで俺も現代人だ(?)。